ぼかし屋の作品紹介

 
東京手描き友禅のぼかし屋は、比較的抑え目の色調が多いのですが、思いきり華やか色で染めた帯です。



ご覧の通りモチーフはバラの花束


通常はピンクにも茶色や黒を加えて色をくすませるのですが、ほぼピンクはピンク、オレンジはオレンジ、ほとんど暗色を加えずに色挿ししました。




 色挿しが済んでまだ糸目糊がある状態


 糸目糊を落として出来上がり
まだ試行段階ですが、今後も花束や花園をイメージした模様を発掘したいと考えております。

ベルばら風と言えば、当然「ベルサイユのばら 池田理代子作」往年の大ヒット漫画の影響を受けたもの。
ぼかし屋も大ファンでした。まだ夢見る少女でしたから(;’∀’)
強い影響を受け、高校時代の世界史授業でフランス革命だけは「もう知ってる!」状態だったものです。

今月、六本木で開催中の「ベルサイユのばら展」に行ってきました。


写真は展覧会のホームページから。
https://verbaraten.com/

一番右はファンなら忘れられない場面。オスカルが衛兵隊を率いて「バスチーユへ!!」と号令するシーン。
多くの原画が展示されていて、繊細なペンで描いた線の美しかったこと!
インクを含ませるペンは先端が割れていて、力の入れ方でペン先が広がったり狭まったりすることで、線に表情が出ます。
その力の入れ加減が実にリアルに見る者に迫ってくる原画でした。オスカルの金髪の輝きを表現する線、スッスッスと描いてある線、近くで見るとすべて手作業。線が生きていました。人物はもちろん服の模様や背景まで、ほとんど手作業の原画ですから綺麗でキレイで。
近々と見られて感激でした。
今の漫画家の方はタブレットの画像処理で描くそうですが、ペンでの手描きにこだわって描く作家もいらっしゃるとか。分かる気がします。

東京は11/20まで。11/30から大阪で開かれるそうです。
ベルサイユのばら展と検索するとすぐ情報にアクセスできますよ。
ぼかし屋の作品紹介 | 11:15 AM | comments (x) | trackback (x)
東京手描き友禅のバラ ハイブリッド・ティー
ぼかし屋のバラの作例


ハイブリッド・ティーを模様として東京手描き友禅で染めました。


バラ、薔薇は源氏物語にも登場する日本に古くからある花なので、四季花図といった画題に登場してきました。たいていは一重咲の小さな花で、牡丹や菊のように主役を張る花ではありませんでした。
現在のような花弁が幾重にも巻いた豪華なバラ(ハイブリッド・ティー)は園芸種として発達してきたそうです。




今回訪ねた京成バラ園はハイブリッド・ティーの発達に大きく貢献した育種家の鈴木省三氏が所長を務めたところで、さすがに素晴らしい大輪の花を楽しめました。



雨上がりの早めの時間だったので、水滴でバラがキラキラと!



夕霧」という名前のプレートがついていました。
ピンクとベージュの間の微妙な色合いが日本風。



こちらは以前から見て観たかった「ピース」


第二次大戦中1944年にフランスで誕生し、翌1945年、サンフランシスコ講和条約締結の会場に飾られた大輪のバラ。平和の願いを込められたそうです。


黄色からピンクの色の淡い移ろいが綺麗な花で、花弁の程よい巻が上品でした。

古来の一重咲のバラもありましたよ。
遠目には山吹のよう。


でも近づくとさすがバラ。一重でも華やかですね。


京成バラ園は千葉県八千代市。
美味しいベーカリーや苗の販売コーナーもあります。機会があればぜひお訪ねください。

ぼかし屋の作品紹介 | 09:39 PM | comments (x) | trackback (x)


帯を締めると前柄とおたいこ柄にバッチリ橘の実がたわわに実っている図で染め帯を作りました。

地染 帯なので少し厚手の生地。

青味の強い緑色です。柑橘類の葉っぱの色からとりました。


色挿し ミカンではなく橘の実、念のため(^^;)
色を試し染めしながら挿していきます。


橘は春夏秋冬、葉が緑であることを称えた歌が万葉集にあります。
実がたわわになっても葉が濃い緑であるのは、例えば、葉も色づく柿の色合いとは違うということです。
おめでたい木とされていて、お雛様の左右に桜と橘がありますね。

ぼかしを多用して黄色からオレンジ色、少し緑色の残る橘の実を描きました。


前々回にご紹介した「片歯刷毛」が大活躍です。


熱源にさらして乾かせながら作業するのは、滲みだしを防ぐため、キレイにぼかすため。

色挿し終了。蒸して、糸目糊を落とし、水洗い、湯のしをお願いして完成へ。


橘は実さへ花さへ その葉さへ
枝に霜ふれど いや常葉の樹    聖武天皇


ぼかし屋の作品紹介 | 11:40 PM | comments (x) | trackback (x)
今回は東京手描友禅の涼しい雰囲気の染め帯を紹介します。


雨中の紫陽花の表現です。
お太鼓と前の柄が見えるように、染め上がりを椅子にかけてみました。


    お太鼓の柄

    前の柄

    染め風景   
 下絵


 色挿し




緑色のラインナップ。色数多く、濃淡もつけることでのっぺりしがちな紫陽花の葉を面白く。手前は色試し布です。

色挿しが進むと葉に変化が出て、涼し気ながら豪華な感じに。手描き友禅ですから!



色挿しが済んだところ。
糊でバリバリした生地は伸子で引っ張られて作業した後ですから変形しています。


まだ糸目糊が残っています。


蒸し、水もと、湯のしが済んで、当初の綺麗な生地にもどった出来上がり。


糸目糊がとれ、白い糸のような線となって残っています。糸目友禅とも呼ばれる訳です。


雨を思わせる地紋の生地を使ったので、地紋の凹凸が光を反射しています。季節感たっぷり。お洒落用の帯となりました。

街中で紫陽花を見かけます。梅雨本番ですね。


最後にぼかし屋ベランダの額アジサイの鉢の写真を。

ぼかし屋の作品紹介 | 09:42 AM | comments (x) | trackback (x)
手描友禅誂え染めの振袖:英国風にbespoke kimono:ビスポークの着物
:米国風にcustommade kimono:カスタムメードの着物……呼び方は色々ありますが。

 ぼかし屋は東京手描友禅を誂え染めで承っております
お客様の様々なご希望に沿うよう工夫していくなかで、こちらが勉強をさせていただく事も多い日々です。
本日ご紹介するのは、黒地に染めた上に鮮やかな菊の花を散らせた個性的な振袖。


 黒地散らし菊文様振袖

 アニメの物語に登場する少女が着ていた振袖と同じイメージで、というご注文でした。
アニメのクラシックな雰囲気を壊さないように、実際に二十歳のお嬢様が着た時に綺麗に見えるように、お客様と相談しながら柄を起こしました。

ちょっとワイルドな雰囲気の菊。
お客様が「こんな感じの菊が好み」とイラストで説明してくださったので、とても助かりました。
 古典的な雰囲気を出すために、菊に合わせた濃い朱色で染めた比翼をつけて
「比翼仕立て」にしました。
三尺の大振袖にも朱色の振りを付けました。
歩いたり袖が揺れたりすると、裾や袖のうしろ側に朱色がのぞき市松人形のようにクラシックです。
 比翼仕立ては現代では黒留袖に多いのですが、本来は格式ある礼装で広く行われていました。今でも振袖や色留袖など、ご希望によって比翼をつけ豪華な雰囲気にいたします。

 製作風景をご覧ください。


 仮絵羽仕立てした状態で下絵を描いていきます。

 ぼかし屋では紙青花を愛用しています。


衿、胸、袖にかけて模様がつながります。これを絵羽模様といいます。
サッと描いてある〇 仮絵羽仕立てでお客様に羽織っていただいて調整した時に、ここに花を増やすと決めてつけた印です。

 

 裾も連続した模様に。絵羽とは「縫い目を越えて模様が連続している」こと。
たとえ散らし文様でも、絵羽模様になっていると着用した時に格の高い印象を与えます。おそらく室町期以来日本人の馴染んできた屏風絵や襖絵の影響だと思います。
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 糸目糊置きの作業

仮絵羽仕立てを解き、生地は伸子に張ってピンとさせてあります。

 糸目糊置きが終了
 

 今回は黒地なので模様の色差しより先に地色の染めを行いました。


模様も地色も一貫制作のぼかし屋ですが、黒染だけは専門の黒染屋さんにお願いします。

 黒染め屋さんから戻ってきた生地にフノリ地入れしています。
糊気がないと模様色差しの時に染料が生地に定着しません。染料が糸目糊を超えてはみ出す原因にもなります。

 いよいよ色差し


 大きな菊が単調にならないよう、各色とも三種類の濃淡を用意しています。


 外に向かって淡くなるよう 花弁ごとに水の力を借りて、薄い色から濃い色へと ぼかし染めしていきます。


 途中で 「絵羽模様の左右で色が合っているかどうか」「各色の菊の散り具合はどうか」確認しながら作業を進めます。

 最後に生地を並べて再点検。

一番裾に生地を伸子の針から保護するための「端切れ」がまだ付いたままです。

 整理屋さんから戻ってきた生地。糸目糊がとれて、
糊の跡が糸目のように白く浮き上がって見えます。(糸目糊の名前の由来)
 さらに水洗いで余分な染料や糊成分などを落とし、乾燥。湯のしで生地目、生地幅を整えて、最初に糸から白生地に織られた時と同じ状態に戻りました。色、模様がついているだけが違いです。
 左端の縫い目は、衿と衽(おくみ)を剥ぎ合せたところ。
仮絵羽仕立てを解いて染める誂え染めでは、作業中必ず衽の中央、衿との境にこの縫い目があります。

 アニメの少女の振袖には金銀は使われていませんでしたが、現実の振袖として少しは金色も欲しいところ。


金をぼかし状に柔らかくあしらいました。

 出来上がりの生地はスッキリと光沢が出てとてもきれいです。

染色作業がすべて済んで点検しながら衣桁に掛けて眺めているところ!(^^)!

お客様に上がりを確認いただいて仕立て屋さんへ移動します。
お嫁入りも近いというわけです。



ぼかし屋の作品紹介 | 11:41 PM | comments (x) | trackback (x)
本日は子供用の被布を紹介します。



 被布(ひふ)は着物の上が重ねて着用するものです。
かつては大人の女性も着用しましたが、今はもっぱら七五三のお祝い着に重ねて女児が着る袖なしの上着を指します。

   古典的な緑色に折り鶴の模様。


 地色のぼかしは、前見頃で段違いにして華やかさを出しました。
朱色系のお祝着によく合う色合いです。

 最近「折り鶴」の歴史についての新聞記事を読みました。

   今年2/22の朝日新聞紙面


 折り鶴は江戸時代18世紀以降のものだと考えられてきたが、
16世紀末~17世紀初頭には存在したことが分かったという内容です。



 三羽の折り鶴が彫り込まれている小柄(こづか)が豊臣秀吉に仕えた職人の作と確認されたそうです。
小柄は刀の鞘の外側に紐巻きして付けておく細いカッターのような小刀です。
小柄の柄は紐巻した上から見えるので、刀の装飾の一部となり、おしゃれのために武士が凝った小柄を自分の刀につけたそうです。

この鶴の大きさは1㎝か1.5㎝といったところ。細かい細工です。

 この記事によれば、折り紙はもともと室町時代に武士が贈答品を包むための礼法として広まり、江戸時代になって町人にも普及したとか。
日本の庶民文化の代表のような折り紙、武士の嗜みとして始まったという折り鶴の歴史は案外古いような、新しいような…


 今では折り鶴模様は可愛らしい着物の柄として好まれています。
もとが折り紙なので、何色も色を使っても上品に見えるところが嬉しく便利な模様です。
ぼかし屋の作品紹介 | 12:20 AM | comments (x) | trackback (x)
 帯用に厚く織られた生地を使って、染め帯を制作中です。


  下絵。生地に模様を置いたところ。
 写真上方から前柄、お太鼓柄、手先の順で下絵が描かれています。

 手描き友禅の染め帯の一般的な柄行きです。
今回はお太鼓の下にのぞく手先にも少し柄を入れました。




 図柄は王朝風の女の子二人が蹴鞠をしているところです。
衵(あこめ、少女用の袿)をおはしょりして、切り袴に沓を履いています。
本当は、年齢に関わらず蹴鞠は男性だけの楽しみ事でしたが、
ま、そこは現代の模様なので。

 パレットのように色々な色がついている「試し布」が写っています。
柄に合わせて作った染料が希望の色のなったかどうか、絹地で確かめるための小切れです。
伸子針でバッテン張りしてピンとさせて使います。




 模様伸子で張った生地の上下に、何やらハンカチが見えます。お弁当を包むような大判のもの。作業をしない部分を巻き取って汚れないように保護しているのです。
作業机近辺は始終拭き掃除して、染料粉などが生地に付かないように注意しています。




 この図案は顔があるので胡粉を使います。
すぐに使えるようになっている友禅用の胡粉ですが、念のため乳鉢で摺って使います。




 色挿しが済みました。向こう下が、梅枝の前柄です。

 ぼかし屋には久しぶりの白地の帯になります。
将来汚れが目立ってきたら、模様部分だけ伏せ糊で防染して地染めができます。
元が白いとどんな色にでも染められて、誂えが二度楽しめるので、特に器物や人物が模様の時は白地、または薄い色目の帯はお勧めです。

 あとは蒸し、洗い、湯のし屋さんへ進み、戻ってきたら金彩で仕上げ作業の予定です。
お顔も描かなくちゃ。(^^)/


9月25日 追記
 帯の仕上げが出来上がりました。
作業風景を写しました。




蹴鞠をする二人の女の子。源氏物語風に言えば女童(めわらわ)



今風に言うならサッカー女子なので、画題は「なでしこジャパン」としました。
「しゃれ帯展」に展示予定です。

ぼかし屋の作品紹介 | 05:39 PM | comments (x) | trackback (x)
手描き友禅による雨中紫陽花の表現

 季節の移ろいは速いもので、あちこちで見事な紫陽花を見かけるようになりました。
紫陽花はたいへん好きなモチーフで、染めるたび色々試しております。




こちらはそぼ降る雨の中の紫陽花の模様。

背景が明るいとそぐわないし、あまり暗いと嵐のようになってしまうし……
ほどほどの曇天になるよう色合いを考えて彩色しました。
染料による雨粒に加え、銀彩で仕上げに雨を増やしています。

近所で撮影した紫陽花。色の移ろいが見事です。




 お天道様が、藤色からブルーまでの染料を作り、三輪とも違う配分で彩色したかのようです。真似したいものです。

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 先日東京地方の梅雨入り宣言がありました。
絹地の保管には厳しい時期となりました。

ぼかし屋の作品紹介 | 08:36 PM | comments (x) | trackback (x)
 昨日無事に今年の染芸展が終了しました。
 浅草の会場に移って初めての開催。場所柄がよかったのか、
三日間のご来場者は約1700人!(‘◇’) 
昨年のほぼ倍増で、諸先輩方もビックリでした。
 当然、友禅染の体験コーナーは大盛況
開催中は本当に多くのお客様とお話ができ、忙しくとも楽しい時間を過ごすことができました。
皆様どうもありがとうございました。





 会場で出品作を撮影しました。
 模様化した菊の花々から生まれた鳳凰が遊ぶイメージで作図しました。
身頃のブルーと同系統色の濃淡で裾濃(すそご)に染めました。
ぼかし線をずらして引き染めを二度繰り返すことで、
たいへん※足の長いぼかし染めとなりました。

 ぼかし染めは、色がグラデーションで薄くなっていき、淡色または、ついに白になる染め。淡くなり始めた所から一番淡く、または白色になるまでの長さを「ぼかしの足」と呼びます。
ぼかしの足が長いほど、なだらかに淡くなっていくぼかし染となります。
短いと、一気に色が消える感じのぼかし染となります。
模様が引き立つぼかし方を考えて染めます。

ぼかし屋の作品紹介 | 11:19 PM | comments (x) | trackback (x)
東京手描友禅の染め帯・若草色と藤色

東京手描き友禅の一点物を創作する時は、常日頃やってみたいと思っていた柄行きと色合いを試してみることになります。
「こんな染めをやってみたい」というヒントは様々なところから頂戴します。
もちろん琳派の絵師たちの作品など、著名な美術品からヒントを得る事は多いのですが、日常生活の中から得ることもよくあります。
 今回は何気なく見ていたテレビの画面から得たヒントで制作した染め帯をご紹介します。

 こちらがその映像。NHK大河ドラマ「伊達政宗」の再放送でした。




 真田広之さん演じる徳川家の御曹司が、思うようにならない人生の成り行きに思い悩むシーンです。
暗い室内の向こうに明るい若草色が広がり、小袖の藤色がよく映えていました。
 緑系と紫系の取り合わせは、元々あまり好まなかったのですが、この映像は印象に残り、頭の中の「いつかやってみたい引出し」に保管しておりました。
 今回機会を得て実現したのが、こちら…



 染め工程から何点か写真を紹介します。


  引き染め。

 濃淡二色をそれぞれ二度に分けてぼかし染め。このような裏からの写真ですと、ぼかしの足をわざと雲取風に形作っているのが分かりやすいと思います。


色挿し

 若草色に対して藤色を活かすのが目的ですが、藤色を中心に花の色を複数足して華やかさと出します。
糸目友禅で蘭を描いています。葉の一部を無線友禅でも描き添えて、模様の雰囲気を雲取風の地染めと釣り合わせました。

無線友禅を重ね描きすると、重なり目で色が変化するのを利用して、ちょっと面白く…。
このようにクローズアップすると生地の織り目がよく見えますね。金通しの紋織です。

 それぞれ濃淡があるので、使う色はかなり多くなります。


 染めていて自分で綺麗だなと楽しむことが出来ました。
 悩む真田広之さんの場面は、映像を作るディレクターさんが、「ここはこんな光と色の具合でいきたい」と考えて撮影なさったはず。俳優さんがどんな色の小袖を着たら美しいか、そこも考えたのかもしれません。
 さらにそこから頂いたヒントで色取りを考えたわけです。
 出来上がりは, 悩みとは無縁な明るい華やかな雰囲気になりました。

 これからも、江戸の昔から伝わる伝統的な模様、柄行きを尊重しつつ、
今ならでは、ぼかし屋ならではの東京手描き友禅を試行錯誤していきたいと思います。
色々なところからヒントを得なくては!

ぼかし屋の作品紹介 | 01:06 PM | comments (x) | trackback (x)

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