笛を包む手描き友禅の布

 
笛を包む手描き友禅の布
前回の徳川家康の絞り染めの羽織の紹介に続き、今回も家康に関連して、友禅染の布の紹介です。
NHKの番組「英雄たちの選択」で家康が息子に形見として遺した著名な笛が取り上げられていました。「乃可勢」(のかぜ)と呼ばれる笛で、信長、秀吉から家康の所有となった名笛だそうです。
(画像は放送からお借りしています)



家康には多くも息子がいましたが、二代将軍を継いだ秀忠からみて、歳の近い弟であった六男、忠輝は、将軍職の長子相続制を確立させるために犠牲となり20代のうちに蟄居の身となり、諏訪市の貞松院で人生を過ごした人です。


笛は家康の死後に形見として生母を通じて忠輝に遺され、今も貞松院で保管されているそうです。
画像は番組で紹介されたその笛ですが、ご覧いただきたいのは笛よりも!それを包む布!



本格的な手描き友禅で花丸の模様が染められています。
古く黄ばみ、かなり退色もしているようですが、美しい完璧なる手描き友禅染めです。まるでお手本。


米粉、糠粉で作った真糊を筒描きして防染し、その跡が白い糸目のように見えています。(糸目友禅とも呼ばれます)
化学染料の色だと思いますので、江戸時代後期以降から昭和期の友禅だと思います。縮緬の生地に花丸模様、花にぼかしで彩色。


糸目の外側に少々染料が浸み出ている所が手描きの味わいでとても良いです!(^^)!
本来はこのようにはみ出しや浸み出しがある事が手描きの特長なのですが、今は完全を求められることが多く、少々窮屈です。
機械プリントではないので「じわっと滲み出た感じ」が良さなのですが。
それをそのままにしているこの友禅染めは、現代のものではなく、手作業の誤差にまだ寛容だった時代の物ですね。新しくとも昭和前期かな、と想像します。


ずっしりと重そうな縮緬の生地。
縮緬生地は表面にシボと呼ばれる凹凸があります。凹凸の大きいと「シボが粗い」とか「鬼シボ」などと呼びます。この生地はかなり鬼シボ


笛の陰になっている部分をご覧ください。粗いシボがよく分かります。
こういう生地は実は、糸目糊置きがやりにくい!筒から線描きした糊が粗いシボのためにめくれて途切れやすいのです。し~っかり生地に食い込むように生地に糊を落とし込む必要がありまして…。ですからこの生地をアップで拝見すると「上手な糸目糊だな~」と尊敬せずにはいられません。
最近は華やかな地紋を織り出した生地が主流で、鬼シボ縮緬で着物を染めることは、まず無くなりました。助かりますが、「それでは訓練にならないよ」とこの生地に言われそう!!!


いつ、だれが、この布で笛を包んだのでしょうね。
諏訪市貞松院で検索しますと、ホームページの寺宝の項目でこの生地、笛をご覧になれます。残念ながら包み布については特に説明がありませんでした。
名笛や刀など宝物の保存には高価な織物が使われることが多いはずですが、この笛は友禅染の縮緬で柔らかく包まれていたのですね。

政治面でも家康に貢献した側室だった生母、阿茶の局の庇護もあったことでしょう。忠輝公は蟄居先の貞松院で安定して暮らし92歳まで長生きしたそうです。江戸時代としては大変な高齢。世俗と距離をおいたのがよかったのかもしれないですね。笛の名手だったそうです。

東京手描き友禅 模様のお話 | 01:46 PM | comments (x) | trackback (x)

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